通貨偽造の被害

もしあなたが私をバットで殴りつけたら、私が被害者。あなたは加害者。私はきっと猛烈に怒る。(生きていれば。)
もしあなたが一万円札を一枚偽造したら、あなたは加害者。被害者は、日本円を持っている日本中、世界中の全員。
あなたが一万円札を一枚だけ偽造すると、ほかの一万円札の価値がほんのちょっと下がる。一万円札の価値がほんのちょっと下がれば、日本円自体の価値もそれに引きずられてまたちょっと下がる。
日本の中央銀行である日本銀行が、何かトチ狂って、いままで発行したすべての日本円と同じ額のお札を刷ってばら撒いた場合、一万円札の価値は今までに比べて半分になっちゃう。100円玉の価値も半分になっちゃう。(「中央銀行がトチ狂ったぞ」という部分を含めると、もっと下がるかもしれないけど。)
もしあなたが、一万円札を一枚偽造している誰かを目撃したとしたら、あなたは「あぁ、悪いことしてる人がいるな。」と思うだけでなく、怒っていい。少なくともあなたが日本円を幾らか持っているなら、そのお金の価値がほんのチョットだけど下がるのだから。
バットで誰かを殴りつける場合、被害者は一人だ。被害者を2人にするためには、同じバットでもう一人を殴りつけないとならない。被害者を100人にするには、時間と労力がえらくかかる。
通貨を偽造すると、たった一枚の一万円札の偽造であっても多くの人を被害者にできる。そのかわり、それぞれの被害者は痛みをほとんど感じない。
今現在の日本円の総発行額が非常に大きいので、一万円札を一枚偽造したくらいでは「おや、最近物価が上がったな」ということには(ほとんど)ならない。流通している日本円の量の多さの前に、被害は薄まってしまう。

だからなにさ?

「だからなにさ?」
さあね。

メモ

  • 日本円ではなく、米ドルを持っている人は被害者か。
  • 多くの人が被害者になることには間違いないが、被害の大きさ自体は分散されてしまって、その問題に対する「怒り」とか「問題を解決しなきゃという意欲」を調達しにくくなる問題は他にはあるか。