ローソンでのこと。ティーポイント。

あるブログを読んでいて、ローソンで買い物をしたときのことを思い出した。数ヶ月前の話だ。

その夜私は、TSUTAYA に行って DVD を借りた。そのついでにローソンに寄った。そのローソンの店舗は、私がよく行く TSUTAYA の隣の隣にあるのだ。苫小牧市の端っこのほうにしては、かなり便利なところだと思う。ちなみに、TSUTAYA とローソンの間には、ミスタードーナツがある。
とにかく私はローソンに寄った。DVD が入っている TSUYATA の青いケースを小脇に抱え、ジュースだったか何かをレジの横に置いてそこで待っていると、店員がやってきてこう聞いた。
TSUTAYA のカードはお持ちですか?」
なんでそんなことを聞かれるんだろう、と一瞬不思議に思ったが、私が TSUTAYA 帰りであることは見た目から明らかだ。私は DVD が入っている青いケースを脇に挟んでいた。
私はとりあえず財布から TSUTAYA のカードを取り出して、「これ・・・・・・のことですかぁ?」*1と店員にカードを見せた。すると店員は、私の手からカードをすっと取り、レジにスキャンした。
私はちょっとムカッとした。「別にまだお前にカードを渡した訳じゃねーよ。これの事ですか?って聞いただけなのに、他人の手からカードを奪い取りやがって」と、心の中ではつぶやいた。心の中ではつぶやいたのだけど、このつぶやきは、私がムカッとした原因を正しく言い当てていないような気がした。それに、店員のあまりになんでもない感じの動きに圧倒されてしまい、何も言えなかった。店員は、これまたなんでもない感じで、私の TSUTAYA カードを返してくれた。
「148円になります」
私はカードを受け取り、そのカードをふたたび店員に見せながら、「あのぉ、このカードをここで出すと、何か?」(「何かいいことが私にあるのでしょうか?」の略)と恐る恐る聞いてみた。すると、「ポイントが溜まります」との説明。非常に簡潔な説明だ。簡潔すぎる*2
TSUTAYA で使えるポイントが溜まるのか、それともローソンで使えるポイントが溜まるのか、あるいはどっちでも使えるようなポイントが溜まるのか、よくわからない。よくわからないけれども、問題はそこではないという感じがして、しょうがなく店を出た。
店の外に止めてあった車に乗ったとき、わたしは理解した。ついさっきローソンで何が起こったのかを、ほぼ理解したのだ。そして猛烈に腹が立ってきた。
「ああそうか。私が今どんな買い物をしたか、TSUTAYA が知る事になったのだな。そして、私が TSUTAYA でどんなビデオや CD をレンタルしているのか、ローソンが知る事になったのだな」と。
問題は「どんなポイントが溜まるのか?」ではなく「ポイントが溜まる代わりに、私はあなたに何を差し出すことになるのか?」だったのだ。私は私の情報を差し出したのだ。
腹が立ったのは、その日のローソンでの買い物の情報と TSUTAYA でのレンタルの情報を「私」というキーで結合されることを、私が認めたかのような態度を、ローソンの店員が取ったからだ。

「空中キャンプ」というブログの「未成年が、こっそりたばこを買う権利」という記事を読んで、このローソンでの買い物のことを思い出した。
ローソンでは TSUTAYA カードの提示が求められ、タバコを買うときには運転免許証の提示が求められ、コンビニで買い物をする時にはおさいふケータイの使用が求められる。
求められ方の種類や強さも様々だ。「カードをご提示いただきますと、ポイントがつきます」「免許証の提示がないと購入できません」「おさいふケータイを使うと、レジでのお支払いにかかるお時間を短縮できます」等々。
zoot32 さんは記事中で

この問題がやっかいなのは、では、この自動販売機を導入することで、なにが失われるのか、とかんがえると、

と、問いを立てているけれど、なんにも失われるものが無くても、自分の情報がいろんなところで結合されていくのはイヤだなぁ、と思う。ローソンで私は、私の情報を差し出した。差し出したけれども、私が持っている私についての情報は減らない。情報っていうのはそういうものだ。あなたの分が増えても、私の分は減らない。コピーされるだけ。
「ポイントがつきますよ」「時間が短縮されますよ」「便利になりますよ」と、いい顔だけを見せて近づいてくる新システムには、要注意かも。
タバコを未成年には売らないようにしよう、という気持ちはわかるけど、そのために使用されるのが、自動車運転免許証というのが気になる。自動車運転免許証の生年月日のところだけをスキャナで読み取って判断する、という仕組みならたいした心配はいらないけど、免許証番号のようなユニークな番号を読み取って、それを公安のデータベースに投げ、レスポンスとして、その時点で喫煙が許される人間かどうかの情報を得る*3、みたいなシステムだと、一気に監視社会度 Up だ。公安側では、あなたがいつ、どの自動販売機の前に立っていたのかというデータを蓄積できるようになるからだ。

たばこは、単に吸えなくなる。キセルは、物理的にできなくなる。こうした状況をどう批判するのかはむずかしい。わたしはいやなのだが、その根拠がうまく見つからない。しかし、この状況にたいする違和感をうまく説明できないと、いずれやっかいなことになりそうな気がするのである。

もっとずっと未来では、「タバコは、それが吸える属性を持つ人間にしか、その存在を知らされない」とかになっちゃったりして。
それは冗談としても、妊婦であることが病院のデータベースに登録されると、その情報が日本中に行き渡ってタバコが買えなくなっちゃうとか。(笑)
「あなたにはタバコを販売できません」と、自動販売機に宣告されて戸惑っている女の人に、通りがかりの人が「あら?おめでた?最近病院に行ったのいつ?」なんて声をかける風景。システマチックにパターナリズム

参考文献・リンク

株式会社Tカード & マーケティング
http://www.tcard.jp/
未成年が、こっそりたばこを買う権利 : 空中キャンプ
http://d.hatena.ne.jp/zoot32/20060916#p1

keywords: ローソン | TSUTAYA | ミスタードーナツ | ティーポイント | おさいふケータイ | パターナリズム | 苫小牧市 | 監視社会 | データベース

*1:なぜか私は、客として店員に話し掛けるときは常に「アホ」を演じてしまう。このときも、かなりアホっぽい声とスピードで質問したはずだ。

*2:説明が簡潔すぎる点を非難するには、質問自体がアホすぎる。

*3:生年月日の情報を自動販売機に返す必要は無い。